「イエス・キリストは神の子ではない」1500年前に書かれた聖書はイランのネガティブキャンペーン
- 2014/07/23
- 20:24
1500年前に書かれた聖書がトルコで発見され、それに対してバチカンが警戒をあらわにしているというニュースが突然流れた。
とりあえず、その件の記事を読んで貰いたい。
バチカンが、トルコで、イエス・キリストが十字架に磔にされたことを否定する、1500年前の聖書のページが見つかったことに激しい懸念を表しました。
プレスTVによりますと、この聖書はバチカンを強く懸念させており、それはこれに「バルナバスの福音書」が含まれているためだとしています。バルナバスはイエスの弟子です。
この書物は2000年に発見され、アンカラの民俗学博物館に保管されているということです。
この書物は皮でできており、イエスが使っていたエラム語で書かれています。この書物の一部のページは時間の経過により黒くなっています。情報によりますと、この書物は専門家によって調査されており、その真正性が認められています。
研究者の一部は、この聖書を調査し、「イエスは十字架に磔刑にされず、さらに彼は神の子ではなかった。イエスは神の預言者だった」と述べています。
この書物の最後には、「イエスは生存しており、彼の代わりにイエスの弟子の一人が磔にされた」と書かれています。
この書物ではさらに、イスラムの預言者ムハンマドの出現が予言されています。
バチカンはこの書物の発見に強い懸念を示し、トルコ政府に対して、カトリックの専門家に調査させるよう、提案しました。
ローマカトリック教会の関係評議会によれば、聖書の内容の一部は検閲され、省略されているということで、おそらく省かれているものにバルナバスの福音書が含まれているということです。
はて、一体何が問題なのかさっぱり分からない。
というか、このニュースが何を言いたいのかもさっぱり分からない。
聖書などについて詳しく知っていて当たり前といった勢いで書かれた文章に、非キリスト教徒である自分としては激しく違和感を感じる。
というのも、このニュースを流したのは『iran japanese radeio』というイランのニュースサイトの日本版なのだ。
主にWikipediaからの知識ではあるが、イランはイスラム教を国家宗教にしており全国民の99%がムスリムであり、それ以外の宗教は迫害を受けている国家である。
そういう国から発せられたニュースだということを意識してみると、ある側面が浮かび上がってくる。
そもそも、この「バルナバス福音書」とは一体なんなのか。
バルナバスという人が書いた福音書(イエス・キリストの伝記や言行録)だから「バルナバス福音書」と呼ばれている。
ならば、そのバルナバスさんって誰なのよって話になる。
聖バルナバス、イエスとほぼ同年代にキプロスに生まれた実名をヨセフというユダヤ人。バルナバスとは「慰め(ナバ)の子(バル)」を意味する霊名である。イエスの十二使徒の中には含まれないものの、イエスの傍に身を置きイエス昇天の後も使徒たちの布教に加わった。私財のすべてを手放して「イエスの言葉が少しでも遠くまで伝わるように」と布教のために身を尽くす。新約聖書に含まれる「使徒行伝」のなかに「聖なる魂に満ち溢れる者」と賞賛される。
(中略)
バルナバスは「イエスは人の子」であるとし、パウロは「イエスは神の子」であるとし、二人は激しく争った末に袂を別つ。傷心のバルナバスは故郷キプロスに戻りそこで生涯を閉じたとの伝説が残る。「バルナバスの福音書 あやみ」より
バチカンが正典であると規定している新約聖書にも登場するイエスの弟子の一人であるらしい。
ではなぜこれをイスラム教国家であるイランが大きく取り上げているのか。
それはこの福音書がキリスト教にとって都合が悪い内容であり、逆にイスラム教にとって都合が良い内容だからである。
宗教に疎い人のために説明しておくと、キリスト教が崇める唯一神「GOD」と、イスラム教の崇める唯一神「アッラー」は同一の存在である。
違いはキリスト教がイエス・キリストを「神の子」であるとしているに対して、キリスト教成立後に新しく生まれた宗教であるイスラム教はイエスを数多くいる預言者(神の声を伝える人)の一人でしかないと規定していることにある。
それ以前に存在したイエスを預言者の一人であるとしながらも、その教えは神の本当の意志からは遠いとしている。
そんな宗教なのでキリスト教からすると、イスラム教の教えを認めるわけにはいかないのである。
さて、話は戻ってこの「バルナバス福音書」。
iran japanese radeioの報道を信じるならば、この福音書にはイスラム教に都合の良い箇所が三つほどある。
- イエス・キリストでは神の子ではない。
- イエス・キリストは磔にされず弟子を身代わりにしていたので、復活の奇跡を起こしていない。
- イスラム教が成立する前にその存在を予言している。
一見するとこれはキリスト教にとって、非常に問題がある内容に一見思える。
しかし現在のキリスト教教会、特にバチカンなどのローマカトリックでは四つの福音書(マルコ・マタイ・ルカ・ヨハネ)を『正典』としている。
福音書には他にも12使徒の一人であるペトロが書いたと呼ばれる「ペトロ福音書」が存在したが、それはローマカトリックによって異端の書に指定されている。
この「ペトロ福音書」が本当にペテロが書いたものであるかという問題は別として、この福音書は3世紀には存在した。
3世紀といえば1700年前、今回ニュースの題材となっている「バルナバスの福音書」よりも200年も古い。
つまりキリスト教にとっては、自分達に都合の悪い福音書を否定することなど遥か昔からやっていることなのである。
それによりキリスト教が受けるダメージなど無いに等しいのだ。
他にも正典とされていない福音書についてはトマスによる福音書、マリアによる福音書、ユダの福音書など数多く存在している。
そもそも、この「バルナバスの福音書」は過去にイスラム教の勧誘に使われていたという話がある。
宗教学者のペル・ベスコウも『イエスに関する奇妙な話』のなかで、1979年にロンドンのイスラム文化センターを訪ねたとき、この福音書が無料で配布されていたと証言している。
(中略)
ちなみに『バルナバ福音書』の写本には、イタリア語で書かれたもののほか、スペイン語で書かれたものがあった。それらの最古の写本は16世紀のものである。
スペイン語版の前書きによると、フラ・マリノという修道士が、教皇シクストゥス5世(1585-1590)がうたたねをしているとき、この福音書を盗み読んで感銘を受け、イスラム教徒に改宗したのだという。このように真偽云々以前に、ここでもイスラム教への改宗を誘う意図が見え隠れする。
同サイトではまた、今回話題に上がった1500年前の「バルナバ福音書」の写本が見つかった時のイランの反応についても記述している。
この福音書に関し、イランは「キリスト教に終わりをもたらすだろう」という声明を発表した。
長々と書いてきたが今回のこのニュース。
つまるところイスラム教国家であるイランによる、キリスト教に対するネガティブキャンペーンであるという残念な結論を下さざる得ない。
そもそもニュースの最後に出てくる『ローマカトリック教会の関係評議会』とやらは何者なのだろう。
文章の最初でバチカンという名称を使っているのに、最後になってわざわざ「ローマカトリック教会の関係評議会」という迂遠な言い方をしているところを見ると、恐らくこの団体はバチカンとは全く関係ない存在であると予想される。
ミスリードを狙っている感があってゲンナリ。
今回のことでキリスト教が激震することはないだろうが、それでもこの写本がとても歴史的価値を持つものであることは確かだ。
ぜひとも宗教や政治のゴタゴタに巻き込まれることなく次の世紀に残して貰いたい。
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