名物 島津正宗 - 徳川将軍家が皇女降嫁の礼に献上した刀
- 2014/09/07
- 04:14
長さ:2尺2寸7分(68.7センチ)
江戸時代中期に書かれた「享保名物帳」という本がある。
これは徳川幕府の第8代将軍・徳川吉宗(暴れん坊将軍で有名なあの吉宗)が、刀剣鑑定や研磨を生業としていた本阿弥(ほんあみ)家に作らせ、その後の刀剣の評価基準にもなった本だ。
その本にも載っている刀であり、製作者は刀工「正宗」とされている。
鎌倉・大巧寺伝来の正宗像(写し)
正宗の作品は武家に非常に人気が高かったが無銘(作者の名前が入っていない)の刀が多く、この「島津正宗」にも作者の名前は入っていない。
「島津正宗」の「正宗」は上述の通り作者の名前であるが、なぜ「島津」の名前が付けられているのかは不明。
1703年(元禄15年)4月26日。
第5代将軍・徳川綱吉が、加賀藩(現在の石川県金沢市辺り)の江戸屋敷(地方の藩主などが江戸に来た時に暮らす場所)である加賀藩本郷邸に訪問する所謂「御成」があった。
「加賀中納言殿」と書かれている場所が加賀藩本郷邸
「小石川谷中本郷絵図」 尾張屋清七 1853年(嘉永6年)
この時に将軍徳川綱吉から、加賀藩藩主・前田綱紀に対して「島津正宗」が贈られていることが江戸幕府編纂の歴史書「徳川實紀」に書かれている。
時は流れて1862年(文久2年)。江戸時代は末期。
「島津正宗」は再び徳川将軍家の手元にあった。
その頃、日本にはアメリカ合衆国から「黒船」がやってきていた。
幕府は朝廷の許しを得ないままアメリカ合衆国と「日米修好通商条約」を調印。
それが原因で幕府と朝廷の関係は険悪なものとなっていた。
関係改善のために天皇家から皇女和宮が、第14代将軍・徳川家茂の下へと降嫁することになった。
その折に「島津正宗」は金千両と共に天皇家に献上されている。
しかし、その直後から「島津正宗」は所在不明となってしまう。
それから約150年間、この刀は完全に姿を消していた。
それが2013年(平成25年)になって京都国立博物館に寄贈されたのだ。
「島津正宗」を寄贈した大阪在住の奥田米佛門氏によれば、1969年(昭和44年)に天皇家にも近い元公家である近衛家から譲り受けたという。
京都国立博物館の末兼俊彦研究員によれば、
- 長さが「享保名物帳」に記述された「2尺2寸7分」という数値と同じであること。
- 江戸時代に作られた刀剣カタログ「継平押形(つぐひらおしがた)」に記載された「島津正宗」の刃紋が酷似していること。
- 公家である近衛家から伝来したこと。
ちなみに寄贈者である奥田氏についても調べてみたが、検索で引っかかるのはこの二つのニュースだけだった。
どちらも大阪在住の同姓同名。蕎麦屋の経営者らしいけど、この奥田氏が「島津正宗」を寄贈した人物かどうかは不明。
ちなみにこの「島津正宗」、京都国立博物館で10月から開催される展示で公開されるそうだ。
秀吉の愛した天下三作-吉光・正宗・義弘-(「京へのいざない」第2期展示) | 京都国立博物館 | Kyoto National Museum
お近くの方は行ってみてはどうだろうか。
▽参考記事▽
- 名刀「正宗」:150年ぶりに確認 和宮ゆかり「島津」 - 毎日新聞
- 秀吉の愛した天下三作-吉光・正宗・義弘-(「京へのいざない」第2期展示) | 京都国立博物館 | Kyoto National Museum
- 『享保名物帳』と名刀伝説への一考察―
- 江戸本郷の加賀屋敷
- 13 小石川谷中本郷絵図
- 『石川県史』 第二編 第三章 加賀藩治恢弘期 第四節 極盛極治
- 落語の中の言葉109「笑い」 落語大好き/ウェブリブログ
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