中国民間団体が略奪物の返還を求める - 朝日新聞
- 2014/08/13
- 20:17
朝日新聞が中国の民間団体が、日本に対して戦時中に日本軍が奪った文化物の返還を求める書簡を、皇室に対して送ったことを報道した。
皇居保管の石碑、返還求める 中国の活動家ら
日本に戦後補償を求める運動を続ける中国の活動家、童増氏が率いるグループが、日本の皇室に対し、皇居にある石碑の返還を求める書簡を送ったことがわかった。童氏は「日中関係は悪化しているが、返還を関係改善の第一歩にして欲しい」と話している。
石碑は「鴻臚井碑(こうろせいひ)」と呼ばれ、海軍が日露戦争後の1908年、激戦地だった遼寧省大連の旅順から皇居に運び、戦利品として明治天皇に献上した。横3メートル、高さ1・8メートルで、唐が713年に渤海国と君臣関係を結んだことが刻まれている。
中国では石碑の返還や日中共同研究を求める動きが00年代半ばにもあった。童氏は旧日本軍による中国人殺害を巡る損害賠償請求訴訟や尖閣諸島を巡る抗議活動にも関わっており、今回の要求について「2カ月前に偶然、石碑の存在を知り、今月7日に書簡を送った」と話す。
宮内庁調査企画室によると、石碑は現在、「国有財産」として皇居内で保管され、一般公開はしていない。返還要求については、「日本の外務省と連絡は取ったが、現時点でコメントはできない」としている。(瀋陽=石田耕一郎)
正直な話、この話を聞いた時は「またか」という感想だった。
対馬から盗まれた仏像の件が頭をよぎってしまったからだ。
対馬仏像盗難事件
対馬仏像盗難事件(つしまぶつぞうとうなんじけん)とは2012年に日本の長崎県対馬市の寺院から、韓国人窃盗団によって重要な仏像などが盗難されたという事件。
盗難された仏像というのは日本国の重要文化財に指定されている対馬市海神神社の「銅造如来立像」(統一新羅時代)と長崎県指定有形文化財である観音寺の「銅造観世音菩薩坐像」(高麗時代)、そして長崎県指定有形文化財の多久頭魂神社の「大蔵経」(ただし大蔵経は、犯人が破棄)。2013年1月29日に窃盗と密輸の容疑で韓国人窃盗団5人が韓国警察に逮捕された。主犯格の6人は有罪で、韓国への搬入を手伝ったとされる1人は無罪が確定されている[1]。窃盗された仏像の所有権を主張する韓国の寺院の主張では、この仏像は元々は韓国の寺院浮石寺のものであり倭寇に略奪されたということで日本の寺院への返還を渋っている[2]。2013年3月14日には持ち去られた韓国の寺院の僧侶が来日し、観音寺にも訪問したが、観音寺では門前払いとなっている。韓国の寺院の創建に登場する人物のマスコットキャラクターの人形や小型の仏像も持参したが、観音寺は受け取らなかった[3]。金額に換算すれば、このマスコット人形は850円であるのに対し、盗まれた仏像は数億円もするとのこと[4]。
この対馬の仏像の場合、韓国側は500年以上前に日本に奪われた物だから返還しないと言っている。
しかし、日本側の主張ではその仏像は略奪したものではないという説がある。
どちらが正しいかはともかく、500年前の事件を元に美術品の所持権を求めるというのは納得し難いものがある。
中国の主張もそれと似たようなものなのではないかという疑念を抱いた。
だが記事を読むにつれて、それとは少し毛色が違うのだということが分かる。
そもそも「鴻臚井碑」とはなんぞやというと、唐が渤海国という国の王に「渤海郡王」という位を授け、二つの国が君臣の関係を結んだということを示す歴史的資料であるらしい。
その「鴻臚井碑」は日本が戦時中に「戦利品」として持ち帰ったということがはっきりと分かっている。
・・・と言うのが中国と朝日新聞の主張だ。
これなー、朝日新聞なのが問題だよなー。
なにしろ30年前に慰安婦に関する捏造記事をでっちあげて、しかもその否定をつい数日前にしたばっかりの朝日新聞。
しかも、その記事の間違いを認めても謝罪の一つもしない朝日新聞。
その朝日新聞が突然、こういうことを言い出したというのがどうにも胡散臭い。
そう感じてしまうのは果たして間違った反応だろうか。
話を戻して。
世界大戦中の略奪物ならば返還してもいいのではないかとも思ってしまうけれども、それを返したとして「何年前以上の物は返還する」という線引きはどこでするのか。
形としては日本は天皇を頂点として、ずっと一つの国が続いてきたという形を取っている。
江戸時代の徳川幕府も、現代の内閣総理大臣も、国を取り仕切る権利を天皇から与えられるという形で政治を行っているのだ。
100年前の略奪物を返還するのなら、韓国が主張する仏像などに対しても返還する義務が生じるだろう。
つまりここで返還に同意すると、連鎖的に問題が拡大するのは間違いない。
それは日本に住む人間として避けてもらいたいという理性的に考える部分がある一方、大戦中の物で略奪物だとはっきりしているなら返した方がいいんじゃないかと感情的に考える部分がある。
一体、日本政府及び皇室がどんな判断を下すのか注視したい。
ただこの鴻臚井碑について話題にしているのはネット上では中国と、その意見に追従する人間だけで、日本側からの明確な反応が窺える内容は見つからないんだよな。
このまま問題が黙殺されてしまうとしたら座りの悪いものがある。
ぜひとも朝日新聞と中国以外のソースが欲しいところだ。
《追記》2014年8月15日
この件について産経新聞が報道している。
しかし短く書いている朝日新聞と比べて、今回の記事を書いた矢板明夫氏は非常に批判的な立場を取っている。
中国の民間団体、皇居保管「唐の石碑」を返還要求 日本のイメージ低下が狙い?
2014.8.15 18:00
(前略) 中国メディアの報道などによると、返還が求められている「鴻臚井の碑」は、横3メートル、高さ1・8メートル、重さは9・5トンの石碑で、碑文には、西暦713年唐が渤海王を「渤海郡王」に冊封した記録などがある。渤海国内(現在の遼寧省旅順市)に建てられていたが、日露戦争で旅順を占領した日本軍が搬出し、戦利品として明治天皇に献上したという。
中国の民間団体「中国民間対日賠償請求連合会」は、この石碑は「日本軍が略奪した」と主張し、北京の日本大使館を通じて、日本政府と天皇陛下宛に返還を求める書簡を送ったことを発表した。同大使館も送達されたことを確認した。
この件について、宮内庁は産経新聞の取材に対し「石碑は日本の国有財産で公開していない」としたうえで、返還要求については「現時点でコメントできない」と話している。
◇
日中関係筋によれば、戦争等を理由にある国の文化財が別の国に移され、その後、返還を求めることは国際社会でよくある事案だ。当事国間の交渉で、返還されたものもあれば、拒否されたものもあり、対応はケース・バイ・ケースだ。
(中略)
日本と中国の間で1972年に署名した「日中共同声明」で、中国側は日中戦争に対する賠償を放棄したことを明記している。このため、中国政府は日本に対し戦争賠償ができなくなった。
(中略)
今回、童氏らが返還を求めた唐の石碑は、日中戦争前に日本に移されたものであるため、「請求権を放棄した日中共同声明と矛盾しない」(中国人学者)という。
(中略)
北京の日本問題専門家は「日中間には長い交流の歴史があり、多くの中国の物がさまざまな形で日本に渡ったことは事実で、それを返還の話が一旦始まったら、きりがなくなり、なかなか終わらないだろう」と話している。『【国際情勢分析 矢板明夫の目】中国の民間団体、皇居保管「唐の石碑」を返還要求 日本のイメージ低下が狙い? - MSN産経ニュース』より
産経新聞の報道では今回の発起人である童増氏について、反日的活動をしている人物で今回の返還要求もその一環であると字数を割いて書いている。
今回、石碑の返還を主導する団体の実質の責任者は、著名な反日活動家の童増氏である。今年初めから3月にかけて、第2次大戦中に日本連行され、重労働を強いられたと主張する元中国人労働者らをまとめ、中国各地の裁判所に日本企業に対し損害賠償を求める一連の提訴を主導したのは童増氏である。
童氏はこのほか、南京事件の犠牲者や元慰安婦に対する賠償など多くの事案に携わっている。
(中略)
しかし、童増氏らは民間賠償の名目で、日中戦争中に被害を受けた中国人らを探しだし、一九九〇年ごろから日本国内の多くの裁判所で日本企業などに対し損害賠償をもとめる裁判を起こしたが、ほとんどは「時効が過ぎている」「請求権が消滅した」などを理由で敗訴した。
今年になってから、日中関係の悪化と習近平政権の対日強硬姿勢に合わせ、童氏ら訴訟の舞台を中国国内の裁判賞に移し、精力的に活動を続けている。
◇
最近、童増氏の活動が大きな“成功“をおさめた事案がある。今年4月、童氏が支援した元中国企業家の親族が、日中戦争に沈没した船を租借していた日本企業から、約40億円の損害賠償を勝ち取ったことである。中国の裁判所が日本企業が所有する別の船を取り押さえたことがきっかけとなった出来事だった。日中両国政府は「戦争賠償ではなく、普通の民事問題」との立場をとっているが、中国世論は「対日賠償の大きな勝利」と位置づけている。
(中略)
童増氏が周辺に対し「約二カ月前に石碑のことを初めて知った」と語ったように、石碑に対する思い入れはなく、返還を求めたことは、反日活動家の一環としての動きにすぎない「日本が中国から物を奪ったこと」を国内外に積極的にアピールする狙いがあると指摘される。『【国際情勢分析 矢板明夫の目】中国の民間団体、皇居保管「唐の石碑」を返還要求 日本のイメージ低下が狙い? - MSN産経ニュース』より
「日中共同声明」で請求権を放棄しているため、日本は中国に対し「鴻臚井碑」を返す必要はないというのが産経新聞の立場。
また今回の返球要求も世界に対して日本の蛮行を喧伝するためのものであり、その石碑を本当に取り戻したいと思っているわけではないと書いている。
ただ
戦利品として明治天皇に献上したというと若干ぼかすような書き方をしているが、この石碑が戦時中に日本軍が略奪したものであるということ自体は産経新聞も認めるところではあるようだ。
中国側に請求権がない以上、これを返すとなると様々な問題に波及することは間違いない。
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