出版社が電子書籍にも再販制度を求めるわけ
- 2014/08/15
- 15:04
日本出版者協議会が電子出版物に対しても再販制度を適用するように、公正取引委員会に要望を出したという報道。
電子出版に再販適用を=中小出版、公取に要望
中小出版社が参加する日本出版者協議会(高須次郎会長)は13日、来年1月に施行される改正著作権法により、紙の出版物と同様の出版権が認められる電子出版物についても再販制度を適用するよう、公正取引委員会に要望したと発表した。
要望書によると、公取委は電子出版物について、コンテンツをCD-ROMなどに収めたパッケージ系、インターネット配信するオンライン系を問わず、紙の出版物と異なる非再販商品との見解を示している。その場合、出版社側が販売価格の決定権を持たない電子出版物は値引き圧力にさらされ、出版経営が成り立たなくなる可能性があると懸念を表明している。(2014/08/13-21:52)
個人的には本の販売ではなく、レンタルでしかない電子書籍はどうしても好きになれないのだけど、人によって――特に本が好きな人であればあるほど電子書籍を利用している率が高いように見える。
何しろ書籍というのは場所を取る。
最近、私自身も部屋に入りきれない書籍を泣く泣く処分した。
そういうことを繰り返していると、本当に取っておきたい本だけを書籍で買って、将来的に処分することになるだろう作品に対しては電子書籍で済ませるというのも賢い選択かもしれない。
そもそも「再販制度」がなんなのか説明すると、出版社が書店に対して本の定価販売を強制できる制度。
これにより全国で書籍は全国で同じ値段で購入できる代わりに、安売りや高額販売ができないようになっている。
日本の場合はここにさらに「委託販売制度」が加わる。
一定期間が過ぎても商品が売れなかった時には、販売店は商品を取次に返品することができるという制度。
この二つが合わさることで、出版社は定価で販売されることで利益の確保ができるし、販売店は売れない本を仕入れても返品できるのでリスクが少なく済むという状況になっている。
そのため書店は売れ筋商品以外の本を仕入れることが出来、様々な本を我々は書店で購入することができる。
ただ、書店だって商売でやってるんだから返品する可能性がある本よりも、確実に売れるだろう人気商品を仕入れたいのは当たり前。
そこを取り次ぎ(出版社と販売店の間に入る問屋兼流通業者)が人気作品に、あまり人気のない作品を抱き合わせで仕入れさせたりして、無理矢理品揃えを増やさせたりしている。
これが電子書籍の場合は、書籍という実態が存在しないため返品する必要はない。サーバーの容量が許す限りであれば、売れようが売れまいがずっと置いておくことができる。
同時に電子書籍は再販制度の対象にはなっていないので、販売店が自由に値下げなどをすることができる。
販売店は維持費があまり掛からず、品切れにもならない商品を安値とは売れて嬉しい。
客は読みたい本が安く買えて嬉しいと両者とも損をしない取引ができる。
これに出版社が反発している理由は自分には分からない。
電子書籍が安く売られることによって紙書籍が売れなくなる。いこる、それまで関係のあった書店、取次、印刷業者との関係が瓦解することを恐れているのかも知れない。
あるいは単純に値下げによって出版社の利益が損なわれることを懸念しているのか。
電子書籍に関する契約がどうなっているのかなどを知らないので、そこら辺は何とも判断し辛い。
単純に考えると出版社への支払いは一冊につき幾らと決め、売れたらその分を電子書籍販売者が払うという契約にすれば利益の確保はできそうに思える。
その最低利益を確保できれば、後は販売側が値引きをしても赤を被るのは販売側なので問題はなさそうなんだけど。
だが最近もAmazonが電子書籍の販売価格を安くすることを目的に、出版社に対して圧力をかけるという事件があった。
米作家900人がアマゾンを批判 「出版社に圧力」と全面広告
2014.8.11 13:28 [米国]
米著名作家ら900人以上が10日付の米紙ニューヨーク・タイムズに全面広告を出し、米ネット通販最大手アマゾン・コムが電子書籍の販売をめぐり出版社に圧力をかけていると批判した。
広告を出したのは、日本でも人気のあるスティーブン・キング氏やジョン・グリシャム氏、ポール・オースター氏ら。広告によると、アマゾンはフランス系の出版大手アシェット・ブック・グループと電子書籍の価格をめぐって争っており、アシェットの扱う書籍を意図的に予約できなくしたり、配達を遅らせたりするなどして圧力をかけているという。
作家らは広告で、読者に不便をかける上、「(争いに無関係な)著者の生活に悪影響を及ぼす」として、争いをすぐにやめるよう訴えた。(共同)
アマゾンvs米作家…泥仕合の様相 「利益になる」「作家も出版社も減収必至」
2014.8.12 09:40
(前略)アマゾンはアシェットとの年初来の交渉で、現在15ドル(約1530円)以上で販売している新刊の電子書籍を、「印刷や流通、返品の費用がかからない」「今や電子書籍の競合は電子書籍以外のゲームや映画などのコンテンツであり、これらに対抗するためにも販売価格を安くすべきだ」などとして10ドル程度に下げるよう要求。アシェットがこれを拒否している。
広告は、アマゾンがアシェットに契約更新の条件をのませる目的で、アシェットが出版する書籍を意図的に予約できなくしたり、配達を遅らせたりするなどして差別的に圧力をかけているとした上で「これ以上作家を傷つけることなく、また顧客の書籍購入を阻むことなくアシェットとの紛争を解決するよう求める」と訴えた。
(中略)
アシェットのソフィア・コトレル上級副社長は「著者の書籍と、それを編集・配本・販売する私たちの仕事の価値を守る決意だ。この困難な状況が長引かないことを望むが、アマゾンの要求をのめば、作家も出版社も減収となるのは必至だ」と主張している。
アマゾンは以前、米出版大手マクミランとの間でも同様の争いを起こし、この時は結局、要求を取り下げている。
米5大出版社であるハーパーコリンズ、マクミラン、ペンギン・ランダムハウス、アシェット、サイモン&シュースターの中で、アシェットの力が一番弱いという事情から、アマゾンが狙いを定めて弱い者いじめをしているとの見方も業界ではある。
また、米電子書籍市場で圧倒的シェアを持つアマゾンの影響力が大きくなりすぎたという市場の問題点も垣間見えてくる『アマゾンvs米作家…泥仕合の様相 「利益になる」「作家も出版社も減収必至」 - SankeiBiz(サンケイビズ)』より
これを聞いた日本の出版社も戦々恐々としただろう。
特に日本出版社協議会に参加しているのは大手ではなく中小の出版社だ。もしAmazonなどが牙を剥いた時に抵抗するのは難しいだろう。
だからこそ電子出版が普及し切る前に、販売側に対して法による首輪を着けようとしているのではないだろうか。
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