1DKの座敷童子
- 2007/08/17
- 12:22
「座敷童子?」
「座敷童子!」
オウム返しされてもなぁ。……まぁ、別にいいけど。
しかし座敷童子に動物の耳なんて生えているものだったろうか。
「座敷童子?」
念のためにもう一度尋ねてみたりする。
「……座敷童子…ですよ?」
……なんでそこで口篭るかな。
まぁ、見た目は確かに童子だった。男一人が暮らす部屋にいる所を目撃されたら、俺がお縄をいただいてしまいそうな程度には小学校低学年ぐらいの女の子だ。
しかし座敷童子ってのはもう少し……こう、着物とか着ているイメージがあるのだが、この目の前の自称座敷童子は随分と今風な格好をしていた。一見するとそこら辺をうろついている普通の子供にしか見えない。
まぁ、普通の子供は頭から耳も生やしてないし、尻にフサフサの尻尾もないけど。
これが今流行りの萌え要素というやつだろうか。
「で、その座敷童子が一体、どうしてウチに?」
座敷童子っていうのは、豪家や古い家に憑くもんじゃなかったか。
少なくとも築6年、1DKの一室に出現するような存在ではないのは確かだ。
「それはもちろん座敷童子ですから。あなたを幸せにするためにやってきたんですよ」
「…座敷童子ってそんなアクティブな生物だっけ?」
「そこはそれ。時代の流れってやつです」
妖怪も殿様商売をしている余裕はないということか。…なんとも世知辛い世の中だ。
「で、幸せって具体的になんなんだ?」
とりあえず、そこは重要だ。幸福の尺度など人それぞれなのだから、勝手な基準で幸せを押し付けられたりしたら適わない。
「お金持ちになれます!」
座敷童子はぱっと顔を輝かせた。
「へぇ、それはすごい」
しかし座敷童子は家に憑くんだから、お金持ちになれてもこのアパートから引っ越したりはできないのではなかろうか。…せめて1LDKとかにならんものか。
なんにしろ、これは渡りに船だ。今月は色々な不幸やら幸福やらが重なって、財布の中身が心許ないところだったりする。
「じゃあ、早速で悪いけどお金とか出してもらえないかな。今月色々ときつくて……」
「無理ですよ?」
なのに、そんなご無体なことを言う。
「えっ、無理…な、の?」
「そりゃあ、無理ですよ」
座敷童子は「やれやれ」というように深く頭を振った。ちょっと常識の無い子扱いされたようで腹が立つ。
「昔は木の葉を小判にしたりもしてましたけどね。流石にこれだけ印刷技術が向上すると、それを完璧に再現するのは難しいんですよねぇ」
科学技術の進歩は妖怪業界にも深刻な影響を与えているようだ。
……今、木の葉を小判にとか言ってなかっただろうか。俺の聞き間違いか?
「……座敷童子なんだよな?」
念のために確認。
「……座敷童子…なんじゃないですか?」
「いや、俺に訊かれても困る」
「…それはそうなんですけど」
だからなんで自信を持って座敷童子だと胸を張ってくれないかな、この娘さんは。
「まぁ、とりあえず座敷童子さんも何か食べるかい? といっても、給料日前なんでロクなものないけど」
考えても始まらない。そもそも妖怪に論理性を求める方が時間の無駄だ。
「計画性ないですねぇ」
あなたが座敷童子の本領を発揮してくれれば、すぐにでもフルコースを用意できるんですけどね。
そんなことを思いながらも冷蔵庫を開けてみる。
……なんだか思っていた以上に寂しいことになっている。冷蔵庫には調味料やドレッシングを除くと、一品だけしか無かった。
「…しかし、なんでまた」
「…? どうしました?」
座敷童子は可愛く首を傾げたりする。その頭の上で尖がった耳がピコピコ揺れる。
「あ、いや。え~と……どういうことか油揚げしかないんです」
その瞬間、座敷童子の顔がパッと輝いた。
「私、油揚げ大好きなんです!!」
彼女の喜びを証明するかのように、フサフサの尻尾がブンブンと振られる。
「………」
いや。もう、なんか色々どうでもいいや。
▽関連▽
・座敷童子 - Wikipedia
・緑風荘の座敷童子
「座敷童子!」
オウム返しされてもなぁ。……まぁ、別にいいけど。
しかし座敷童子に動物の耳なんて生えているものだったろうか。
「座敷童子?」
念のためにもう一度尋ねてみたりする。
「……座敷童子…ですよ?」
……なんでそこで口篭るかな。
まぁ、見た目は確かに童子だった。男一人が暮らす部屋にいる所を目撃されたら、俺がお縄をいただいてしまいそうな程度には小学校低学年ぐらいの女の子だ。
しかし座敷童子ってのはもう少し……こう、着物とか着ているイメージがあるのだが、この目の前の自称座敷童子は随分と今風な格好をしていた。一見するとそこら辺をうろついている普通の子供にしか見えない。
まぁ、普通の子供は頭から耳も生やしてないし、尻にフサフサの尻尾もないけど。
これが今流行りの萌え要素というやつだろうか。
「で、その座敷童子が一体、どうしてウチに?」
座敷童子っていうのは、豪家や古い家に憑くもんじゃなかったか。
少なくとも築6年、1DKの一室に出現するような存在ではないのは確かだ。
「それはもちろん座敷童子ですから。あなたを幸せにするためにやってきたんですよ」
「…座敷童子ってそんなアクティブな生物だっけ?」
「そこはそれ。時代の流れってやつです」
妖怪も殿様商売をしている余裕はないということか。…なんとも世知辛い世の中だ。
「で、幸せって具体的になんなんだ?」
とりあえず、そこは重要だ。幸福の尺度など人それぞれなのだから、勝手な基準で幸せを押し付けられたりしたら適わない。
「お金持ちになれます!」
座敷童子はぱっと顔を輝かせた。
「へぇ、それはすごい」
しかし座敷童子は家に憑くんだから、お金持ちになれてもこのアパートから引っ越したりはできないのではなかろうか。…せめて1LDKとかにならんものか。
なんにしろ、これは渡りに船だ。今月は色々な不幸やら幸福やらが重なって、財布の中身が心許ないところだったりする。
「じゃあ、早速で悪いけどお金とか出してもらえないかな。今月色々ときつくて……」
「無理ですよ?」
なのに、そんなご無体なことを言う。
「えっ、無理…な、の?」
「そりゃあ、無理ですよ」
座敷童子は「やれやれ」というように深く頭を振った。ちょっと常識の無い子扱いされたようで腹が立つ。
「昔は木の葉を小判にしたりもしてましたけどね。流石にこれだけ印刷技術が向上すると、それを完璧に再現するのは難しいんですよねぇ」
科学技術の進歩は妖怪業界にも深刻な影響を与えているようだ。
……今、木の葉を小判にとか言ってなかっただろうか。俺の聞き間違いか?
「……座敷童子なんだよな?」
念のために確認。
「……座敷童子…なんじゃないですか?」
「いや、俺に訊かれても困る」
「…それはそうなんですけど」
だからなんで自信を持って座敷童子だと胸を張ってくれないかな、この娘さんは。
「まぁ、とりあえず座敷童子さんも何か食べるかい? といっても、給料日前なんでロクなものないけど」
考えても始まらない。そもそも妖怪に論理性を求める方が時間の無駄だ。
「計画性ないですねぇ」
あなたが座敷童子の本領を発揮してくれれば、すぐにでもフルコースを用意できるんですけどね。
そんなことを思いながらも冷蔵庫を開けてみる。
……なんだか思っていた以上に寂しいことになっている。冷蔵庫には調味料やドレッシングを除くと、一品だけしか無かった。
「…しかし、なんでまた」
「…? どうしました?」
座敷童子は可愛く首を傾げたりする。その頭の上で尖がった耳がピコピコ揺れる。
「あ、いや。え~と……どういうことか油揚げしかないんです」
その瞬間、座敷童子の顔がパッと輝いた。
「私、油揚げ大好きなんです!!」
彼女の喜びを証明するかのように、フサフサの尻尾がブンブンと振られる。
「………」
いや。もう、なんか色々どうでもいいや。
▽関連▽
・座敷童子 - Wikipedia
・緑風荘の座敷童子